重症心身障害児(者)と医療的ケア児が入所する医療型障害児入所施設で働く看護師の1日の仕事内容・仕事の流れについて、実際に私が働いている施設の内容を詳しく紹介します。
一施設の仕事内容・仕事の流れになりますのでどの施設も同じとは限りませんが、これから医療型障害児入所施設で働こうと考えている方の参考になればと思います。
私の働いている施設では、入所している重症心身障害児(者)・医療的ケア児を「利用者様」と言います。なので、この記事内でも「利用者様」という言葉を使わせて頂きます。
私が働いている病棟の概要
入所している利用者様40人
医療ケアが必要な方から医療ケアをほとんど必要としない方まで幅広く入所しています。日常生活においては全員全介助が必要です。
生活介護度 | 全員が食事、排泄、入浴、移乗において全介助が必要 |
コミュニケーション | 喜怒哀楽を表現できたり簡単な言葉なら理解できる方が数名 |
医療ケア度によって3チームに分かれています。
重症チーム | 人工呼吸器、経管栄養、吸引、その他 |
医療ケアあり | 気管切開孔カニューレフリー、夜間NPPV、経管栄養、吸引 |
軽症チーム | 医療ケアなし(吸引・浣腸たまにあり、てんかん発作あり) |
入所している利用者様の他に、ショートステイもあります。1日1~2人受け入れています。
★重症心身障害児(者)について
日勤の病棟スタッフ
- 看護師:5~7人
- 介護スタッフ(介護福祉士、保育士、指導員等):3~5人
- パート職員(介護スタッフ補助や洗い場業務等):2~4人
看護師はチーム担当と入浴担当、ショートステイ担当に分かれて業務を行います。
チーム担当 | 重症チームは2人で担当 医療ケア・軽症チームは午前中は1人、入浴終了後に入浴担当が合流 |
入浴担当 | 介護スタッフと協力して入浴介助を行う 入浴介助後は各チームへ |
ショートステイ担当 | ショートステイ利用者の受け入れ・ケアを行う |
★私の働く施設の紹介
日勤業務の流れ(7:30~16:30)
出勤
ナース服へ着替えて病棟へ
そんなに大きな施設ではないので病棟と更衣室の距離が近いです。これは私が地味にいいなと思っている点です(笑)。
連絡ノートを確認
病棟に入ったらまず連絡ノートを確認します。全体ミーティングの時間短縮のため、連絡ノートは基本的に個人でチェックする方式です。
申し送りまで時間があればやること
- バイタルサイン測定
- 人工呼吸器設定の確認
- 朝の内服薬チェック
この時間で全員終わらせる必要はありません。というか終わりません。
情報収集はしないの?
病院の場合だと出勤後はじめに担当患者様の情報収集をするところが多いと思います。
施設では利用者様は長期で入所しているので、基本的な情報は病棟で働くスタッフは大体把握しています。大きな状態の変化も少ないので情報は基本申し送りで聞きます。
たまに点滴しているとか特に体調が悪い利用者様がいた場合はベッドまで様子を見に行ったりします。
病棟入りする時間は?
私はだいたい10分前ぐらいに出勤しています。みなさん5~20分前出勤と割とばらばらです。早い人だと30分前に出勤してくる人もいます。
7:30 朝のミーティング
日勤看護師・介護スタッフみんなで本日の予定を確認します。
- 病棟担当医師の確認
- 検査
- 医療処置
- 他病院受診
- ショートステイ利用者
- 外出・外泊の予定
- 特別支援学校の行事
- 本日のレクの内容(介護スタッフさんより)
- 師長からの連絡 など
7:35 申し送り
夜勤さんから申し送りをもらいます。
- 夜間の睡眠状況
- 食欲・活気
- てんかん発作
- 新規・変更のあった指示や内服、処置
- 吸引頻度や痰の性状
- 排便状況 など
てんかん発作
既往にてんかんのある利用者様が多いので、てんかん発作はよくあります。てんかん発作が起こった時間や持続時間、その時のバイタルサイン、酸素投与の有無や臨時薬剤使用の有無など細かく申し送りをしていきます。
便秘
便秘の利用者様が多いので排便チェックは必ず行います。便秘が続いている利用者様は日中で浣腸等の排便処置を行います。便秘の日数でどんな排便処置を行うか一人ひとり指示が出ています。
治療
肺炎など体調が悪化した場合は、抗生剤治療等は施設内で行うので、使っている抗生剤や補液内容、欠食有無などの治療内容を確認します。
小さな変化も見逃さない
食欲や活気など、私は転職した当初「申し送り細かいな」と思いました。
重症心身障害児(者)は意思疎通が困難な場合が多いので、身体の不調を上手に訴えることができません。
だからこそ、日々の観察の中で少しでもいつもと違うなと感じるところから体調の変化を読み取っていくことが大切です。
また、長期で入所しているからこそ利用者様への理解が深まり、日常の小さな変化でも気づきやすいのだと思います。
★重症心身障害児(者)施設の申し送り・観察ポイント
7:45 バイタルサイン測定・人工呼吸器設定の確認・食事介助・与薬・口腔ケア
バイタルサイン測定
- 体温
- 脈拍
- 呼吸数
- 酸素飽和度
- 血圧(週1回)
担当チームの利用者様のバイタルサイン測定を実施します。
血圧については、血圧管理が必要な利用者様は毎日測定していますが、特に血圧管理が必要なければ週1回測定します。
人工呼吸器設定の確認
重症チームでは人工呼吸器の設定の確認と呼吸状態の観察を行います。
内服薬チェック・与薬
経口摂取できる利用者様の朝食が始まるので軽症チーム担当看護師は朝の内服薬チェックを行います。
全員分チェックできたら食事を始めている利用者様から配薬していきます。配薬する際には食事介助者とお名前をダブルチェックします。
★重症心身障害児(者):よく使うお薬について
食事介助
食事は病棟内のフロアでみんなで集まって食べます。看護師が申し送りをしている間に介護スタッフさんたちが経口摂取できる利用者様を車椅子に移乗してフロアまで連れてきてくれます。
経管栄養の利用者様は夜勤で与薬まで終了しているので、医療ケアチームの看護師はバイタルサイン測定が終わったら経口摂取の利用者様の食事介助を行います。
食事介助が必要な利用者様の人数は多く、時間のかかる利用者様もいるので介護スタッフ・看護師みんなで協力して行っていきます。
口腔ケア
歯ブラシ、舌ブラシ、お口ふき取りシートを使って口腔ケアをしていきます。
口腔ケアの必要性を理解できる利用者様は少なく、口腔ケアが嫌いな方が多いので、けっこう大変です。噛まれないように注意しながら、でも歯全体を磨かなくてはいけません。緊張が強いとお口を開けるのも大変なので指ガードも使用しています。
歯科衛生士さんは救世主
当施設には歯科衛生士さんがひとりいます。
週1~2日、歯科衛生士さんが病棟に介入してくれる日があり、一日かけて病棟の利用者様全員の口腔ケアを実施してくれます。
やはり歯科衛生士さんが口腔ケアをしてくれるとみんなお口がとてもきれいになり、仕上がりが全然違います。
お口の清潔は誤嚥性肺炎の予防にもつながるのでとてもありがたいです。
★重症心身障害児(者)施設で働く看護師以外の職種について
8:55 学生さん登校
特別支援学校へ
当施設には特別支援学校が隣接しており、小学生~高校生までの学生さんは日中は学校に行きます。
学校の入り口でそれぞれの担任の先生が待っているので、学校の入り口まで送り届けます。担任の先生には今日の体調を軽く報告します。
病棟から学校まではとても近く、3分ほどで到着します。ただ、みんな車椅子なのでエレベーターは混雑します。
登校が難しい利用者様は訪問学級
重症チームの学生さんの中には登校するのが難しい子もいるので訪問学級を行います。毎日、特別支援学校から担任の先生が来てベッドサイドで授業してくれます。
音楽の授業では担任の先生の歌が素敵で、同室の利用者様も一緒に聞き耳を立てて聞いています(笑)。
9:00 検査・処置・入浴介助・ショートステイ受け入れ
それぞれ担当の仕事をします。
チーム担当看護師
医師が行う処置の介助
長期で入所しているので定期的に実施する処置が複数あります。
- 胃瘻・腸瘻交換
- 気管支カニューレの交換
- 気管支鏡検査(たまに)
- ITB療法の薬剤補充 など
病棟担当医と時間を相談して処置を行います。
物品の準備や片付けをします。また、処置が実施しやすいよう利用者様をベッドに移乗し体位を整えます。
看護師で実施する処置
看護師だけで行える処置は空いた時間に実施していきます。
- 人工呼吸器回路・フィルター交換
- 気管カニューレホルダー交換
- 経鼻経管栄養チューブの交換
- 皮膚トラブル対する軟膏塗布
- コンフォートカフやIPVを使用した排痰ケア
- 腹臥位
- 便秘時の排便処置 など
重症チーム担当の看護師は入浴のない利用者様のおむつ交換も実施します。
軽症チームの利用者様のおむつ交換は介護士さんたちが行ってくれます。
その他
- 指示受け
- 皮膚トラブル等の評価
- 検査案内
- 臨時薬チェック
- 記録 など
★重症心身障害児(者)施設でよく行う医療ケア・看護技術
入浴係
介護スタッフと協力して入浴が組まれている利用者様の入浴介助を行います。基本的にひとり週3回の入浴が組まれています。
看護師は主に人工呼吸器装着や気管切開孔など医療ケアのある利用者様の入浴介助を行います。
特に医療ケアのない利用者様は介護スタッフさんだけでも入浴介助ができます。
入浴は全身を観察するチャンス
介護士さんたちも皮膚トラブルに敏感で、発赤や引っ掻き傷など小さなものでも発見したらチーム担当看護師にすぐに報告してくれます。
看護師はどのような皮膚トラブルか観察し、必要があれば医師へ報告し処置の指示をもらいます。
ショートステイ係
ショートステイの利用者の受け入れを行います。ベッドや書類は前日で準備しているので揃っているか確認します。
来棟したら保護者から情報を確認します。
- コミュニケーションの程度、訴え・合図の方法
- 運動レベル、転倒リスク
- 内服薬
- 食事の方法、経管栄養の場合は栄養剤の種類
- てんかん発作の既往
- てんかん発作時の様子と対応方法
- 人工呼吸器を使用している場合は設定
- 必要な処置
- ポジショニングの注意点
- 皮膚トラブルの有無
- 荷物チェック
- 入浴希望日
- お迎え日時の確認
- その他気を付けてほしいこと など
何度も利用されている方だど10分ほどで確認が終了しますが、初めての方やケアの多い方だと確認に30分ほどかかる場合もあります。
受け入れ後はバイタルサイン測定や依頼されたケアの実施、持ってきた物品を使用しやすいよう整理したり書類作成や記録を行っていきます。
食事介助や内服、入浴も基本的にショートステイ係が行います。
ショートステイの利用者様は普段自宅で介護・ケアをしており、保護者の方にとても愛され大切にされているのでより丁寧なケアが求められます。
11:00 お昼の内服薬と注入準備・レク
内服薬の準備
チーム担当は担当利用者様のお昼の内服薬をチェックし与薬の準備を行います。
経管栄養の栄養剤の準備
入浴が終わった入浴担当は経管栄養の利用者様の注入を準備します。
注入メニューは一人ひとり違います。水の量や栄養剤の種類・量など体重や栄養状態によって決まっており、メニュー表に従って準備していきます。
病棟レク
介護スタッフさんたちが毎日レクを計画し実施してくれます。
重症チームなど医療ケア度の高い利用者様には看護師が一緒についてレクに参加します。
- ミュージックケア
- 手作りボウリング
- ダンス
- あっちむいてほい
- リラクゼーション・タッチング
- 作品制作 など
利用者様の笑顔が見られ、とっても楽しい時間です。盛り上げ上手な介護スタッフさんたち、尊敬します。
11:45 食事介助・経管栄養・与薬・口腔ケア・学生さんも一時帰棟
食事介助・与薬
朝食と同様に看護師・介護スタッフで協力して食事介助を行います。昼食は病棟担当のリハビリスタッフも食事介助に入ってくれます。
食事を始めている利用者様から配薬していきます。
経管栄養・与薬
朝の経管栄養は夜勤で終了していましたが、昼食は経管栄養もあります。チーム担当看護師は食事介助には入らず経管栄養と与薬を実施していきます。
学生さん一時帰棟
学校に登校していた学生さんたちも、昼食を食べに一旦病棟に戻ってきます。
担任の先生が病棟まで送り届けてくれます。昼食後はまた学校に登校します。
12:55 学生さん登校
朝と同じ要領で学生さんを特別支援学校まで送り届けます。
13:00 おむつ交換
食事・経管栄養が早く終わった利用者様からベッドへ移乗しおむつ交換をしていきます。
医療ケアのない利用者様は主に介護スタッフさんたちがおむつ交換を行ってくれます。重症チームは看護師で行います。
11時~14時の間にチームで相談しながら1時間ずつ交代でお昼休憩に入ります。
14:00 学生さん帰棟・入浴・残りの処置・記録
学生さんの入浴
学生さんは午後に入浴が組まれます。小学生は14時頃、高校生は15時頃に帰ってきます。午前中より人数が少ないのですぐ終わります。
処置
午前中に終わらなかった処置を実施します。入浴はすでに終わっている場合が多いので、入浴担当がチームを回り実施してくれます。
記録
記録内容は病院と大きく変わらないと思います。
日中の様子や何か変化があったり処置や評価を行った場合は看護記録に記載します。また、処置伝票で実施した処置のコストを取ります。
発熱などあれば午後もバイタルサイン測定を行いますが、特に変化がなければ午後のバイタルサイン測定は行いません。
15:00 おやつ・注入、季節ごとのイベント
おやつ・注入
おむつ交換のためベッドへ戻っていた利用者様を車椅子に移乗しフロアへ移動します。経口摂取の利用者様は水分補給を兼ねて毎日おやつがあります。こちらは介護スタッフさんがあげてくれます。
看護師は経管栄養の利用者様の水分補給の注入を実施します。
季節ごとのイベント
お誕生会やクリスマス会など毎月1~2回、季節ごとのイベントを開催します。こちらも毎回介護スタッフさんたちが準備してくれ、利用者様みんな楽しんでいます。
重症チームの利用者様は看護師が付き添って参加します。
16:00 申し送り・物品補充・翌日の処置の準備・管理日誌記載
申し送り
夜勤さんへ申し送りを行います。
日中の様子やてんかん発作の有無、新規指示・変更があった指示の内容、処置など朝の申し送りと同様に行います。
物品補充・翌日の処置の準備
日中で使った物品を補充したり翌日の処置で使用する物品の準備を行います。
物品補充 | ・吸引チューブ ・手袋 ・アルコール綿 ・タオル類 など |
翌日の処置の準備 | ・胃瘻チューブ ・気管支カニューレ ・ITB療法物品 など |
管理日誌
軽症チームの看護師が病棟の総リーダーも兼務しているので各チームに日中の利用者様の様子を聞きに行き、管理日誌を記載します。
総リーダーとなっていますが、指示受けなど利用者様に関することは基本的に各チームの看護師で行います。
総リーダーの仕事は管理日誌記載、電話対応、薬局から届いた薬を各チームへ届ける、本日予定の処置が全て実施されたかの確認など、外部との連絡や全体業務の確認になります。
16:30 退勤
基本的な業務内容が決まっており、ルーティンワークの働き方になるので、定時で帰れる日がほとんどです。
日勤スタッフが極端に少ない日や肺炎等で点滴・治療をしている、大きな指示変更があった、処置が多かった日などは残業になることもあります。
まとめ
日常生活の援助が基本的な仕事内容になります。
利用者様は不調を訴えることが苦手なので小さな変化を見逃さない観察力が大切です。
人工呼吸器の装着など医療ケアもありますが、状態は安定しており、急変はほとんどありません。入退院や急な検査もないので、時間に追われることなく自分のペースで働くことができます。
また、一人ひとりの利用者様とじっくり関わり時間をかけて関係性を築くことができるので、利用者様それぞれの特徴を理解し寄り添った看護を提供することができます。
毎日の仕事の中で利用者様と楽しくコミュニケーションを取りながら、時間に追われることなく働けることがこの仕事の魅力だと感じています。
私の所属する病棟は医療ケアを必要とする利用者様が多いので看護師の配置が多いですが、医療ケアを必要としない利用者様が多い病棟では介護スタッフの配置が多く、看護師は与薬や見守りのみという病棟もあります。
「★」については今後詳細記事を書いていく予定です。